2025/11/28

【原作を知っていても罠にハマる】最新作「アガサ・クリスティー ゼロ時間へ」見どころ&キャスト紹介

ミステリーの女王アガサ・クリスティーの名作に新たな解釈を加えたリメイクドラマを毎年発表しているBBCの最新作が、今年も日本初上陸!2025年の新作は「ゼロ時間へ」です。1944年に発表されて以降、ミステリーファンを虜にし続け、「お気に入りのクリスティー作品は?」と聞けば必ず名前が挙がるタイトルですが、BBCの最新作は一味違います。今回の記事では、本作の見どころとキャスト情報をご紹介!ぜひドラマをご視聴いただく前に読んでいただき、ドラマをさらに楽しんでいただけると嬉しいです。

【あらすじ】

時は1936年。世界的なプロのテニス選手ネヴィル・ストレンジが妻のオードリーと繰り広げた泥沼の離婚劇は、ネヴィルが法廷で自らの不貞を認めたことで一応の決着がついた。しかし、元妻オードリーがかつての二人の思い出の場所ソルト・クリークにある屋敷ガルズ・ポイントで夏を過ごすことを知ったネヴィルは、タイミングを合わせて自分もそこに逗留することを決める。もちろん、ハネムーン中の新妻も同伴で。

三人の到着によって、美しい岬に立つ豪邸の中には不穏な緊張感が漂う中、やがて殺人事件が起こる。犯人は?その目的は?しかし、殺人は終局に過ぎない。すべては何か月、あるいは何年も前から始まっていた物語であり、やがてすべては殺人が起こった瞬間、すなわち「ゼロ時間」へと収束してゆく…。謎を解き明かし、犯人の恐ろしい企てを阻止することはできるのか?

© Agatha Christie Productions Limited MMXXIV

【ドラマの前に押さえておきたい基本情報】アガサ・クリスティー『ゼロ時間へ』とは?過去の映像作品&歴代トレシリアン夫人役について

原作である『ゼロ時間へ』は、アガサ・クリスティーが手掛けた数多くの長編作品の中でも、ロンドン警視庁のバトル警視を主人公とする5作品のうちの一つです。過去に何度か映像化されたことがあり、1980年にイタリアで放送されたテレビドラマ版では、「第三の男」(1949)や「かくも長き不在」(1961)に出演し、1997年にヴェネツィア国際映画祭の栄誉金獅子賞を受賞したアリダ・ヴァリーがトレシリアン夫人役を務めました。

2007年にはフランスで制作された映画「ゼロ時間の謎」が日本を含め世界各国で上映。本作でトレシリアン夫人役を演じたのは、「ロシュフォールの恋人たち」(1967)や「8人の女たち」(2002)をはじめ、100以上の作品に出演したフランスを代表する名優ダニエル・ダリューでした。

ミステリーチャンネルで放送中のジェラルディン・マクイーワンが主演を務める「アガサ・クリスティー ミス・マープル」シーズン3第3話の「ゼロ時間へ」が印象に残っている方も多いのではないでしょうか?バトル警視に代わって、原作には登場しないミス・マープルが探偵役を務めるという大胆なアレンジを利かせた作品ですね。

本作でトレシリアン夫人役を演じたのは、アイリーン・アトキンス。第56回アカデミー賞で作品賞をはじめ5部門にノミネートされた映画「ドレッサー」(1984)をはじめ、数々の映画やドラマに出演。「ザ・クラウン」シーズン1では、エリザベス女王の祖母メアリー女王役で登場し、イギリス王室の治世を六代にわたって見つめ続けてきた王族の貫禄を見せる印象的な役柄を演じました。デヴィッド・スーシェ主演「名探偵ポワロ」のシーズン12第4話「オリエント急行の殺人」ではドラゴミノフ侯爵夫人役で出演していますね。

【ベル一つで屋敷を支配する女主人】本作のトレシリアン夫人役アンジェリカ・ヒューストンについて

ミステリーとはつねに「殺人」から幕を開ける…という前提を逆手にとって、「殺人」はあくまでも収束点にすぎず、すべてはその前から始まっているのだ、とする斬新な手法で綴られる物語が魅力の『ゼロ時間へ』。文章と同じ手法をとれない代わりに、映像化された本作では、第1話から観客を物語に引き込むための雰囲気づくりに工夫が凝らされています。

ドラマ冒頭から始まる法廷を巻き込んだ泥沼の離婚劇。身勝手な世論、熱狂するマスコミ、印象を簡単に操作しうる弁護士たちの舌戦…ひりつくような緊張感はドラマを彩る重要な要素として、離れることなくついてきます。そして、物語の中でも最も印象的な役として登場するのが、美しい荒波を望む屋敷ガルズ・ポイントの女主人トレシリアン夫人です。

© Agatha Christie Productions Limited MMXXIV

夫をボート事故で失ってからというもの、部屋に引きこもる彼女は、日常生活のほとんどをメイドに頼っています。しかし、彼女を無力な老女と侮る人間は一人もいません。メイドも、お抱え弁護士も、甥もその妻も(そして元妻も)、ひとたび彼女が部屋のベルを鳴らせば、誰もその呼び出しを拒否することなどできないのです。一体彼女の何がそこまでの力を持っているのか?確かにうなるほどのお金を持っています。名士としての権力もあるでしょう。しかし、本作のトレシリアン夫人を支配者たらしめるものはその圧倒的な存在感なのです。

さて、そんなトレシリアン夫人を演じるのは、アンジェリカ・ヒューストン。1951年生まれ。父ジョン・ヒューストンが監督を務めた映画「愛と死の果てるまで」(1969)で初めて主演を務め、その後1986年の映画「男と女の名誉」では、アカデミー賞助演女優賞を受賞。そのほか「敵、ある愛の物語」(1989)と「グリフターズ/詐欺師たち」(1990)でもオスカーにノミネートされた経験を持ちます。

個人的には、映画「アダムス・ファミリー」(1991)で一家の母親モーティシア・アダムス役が非常に印象に残っています。もともとはアメリカの漫画家チャールズ・アダムスによるコミックでしたが、アニメ化やドラマ化を経て、映画化され、日本でも大ヒットしました。どこか不気味なのに憎めない、おかしな一家が巻き起こす騒動をブラックユーモアたっぷりに描いた作品として今なお人気を誇っています。セクシーな黒のドレスを身にまとい、悪事を貴ぶわりに子供をしっかりとしつけ、結婚してから何年が経とうともまるで新婚のように夫を愛する妻…という原作から抜け出してきたかのような再現度で、多くのファンを虜にしました。

ドラマでは、「ミディアム 霊能者アリソン・デュボア」(2005-2011)のシーズン4にレギュラー出演。スティーヴン・スピルバーグが製作総指揮を務めたミュージカルドラマ「SMASH」(2012-2013)や、「トランスペアレント」(2014-2019)のシーズン2~3にもレギュラー出演しています。

近年は、キアヌ・リーヴス主演のアクション映画「ジョン・ウィック」シリーズ三作目である「ジョン・ウィック:パラベラム」(2019)に出演。孤児を集めて暗殺者とバレリーナに育て上げるロシア系犯罪組織ルスカ・ロマの女主人にして、ジョンの育ての親でもある「ディレクター」役で登場しました。2025年8月に日本でも公開された最新スピンオフ作品「バレリーナ:The World of John Wick」(2025)にも同役で出演しています。

© Agatha Christie Productions Limited MMXXIV

【キャスト紹介】

ここでは、ほかのキャストについても軽くご紹介します。世界的テニスプレイヤーであり、新妻を連れて元妻に会いに行くという爆弾を抱えて屋敷にやってくるネヴィル・ストレンジを演じるのは、「ファースター 怒りの銃弾」(2010)や「透明人間」(2020)のオリヴァー・ジャクソン=コーエン。

© Agatha Christie Productions Limited MMXXIV

ネヴィルの元妻オードリー役には、ミステリーチャンネルでも放送された「フィフティーン・ラブ~天才プレイヤーの告発」(2023)で主演を務めたエラ・リリー・ハイランド。

© Agatha Christie Productions Limited MMXXIV

ネヴィルの新しい妻ケイを演じるのは、ミミ・キーン。BBCのロングラン・ヒットドラマ「イーストエンダーズ」に2013年から2015年にかけてレギュラー出演し、Netflixのコメディドラマ「セックス・エデュケーション」にも出演していました。

© Agatha Christie Productions Limited MMXXIV

ドラマ冒頭、トレシリアン夫人にこき使われるために登場する警察官のリーチ警部補役を演じるのは、マシュー・リス。大ヒットファミリードラマ「ブラザーズ&シスターズ」(2006-2011)にレギュラー出演したことでご存知の方も多いのではないでしょうか?「ジ・アメリカンズ 極秘潜入スパイ」(2013)や「ペリー・メイスン」(2020-2023)など数多くの作品で主演を務めています。

© Agatha Christie Productions Limited MMXXIV

【最後に】

『ゼロ時間へ』の原作が発表されたのは1944年ですので、もうすでに読んだことがあるというミステリーファンの方も多いかと思われます。しかし、あえてミステリーの女王の名作をリメイクしようというだけあって、BBCが2015年から放送しているこのシリーズはいつも観客に新鮮な驚きを与えてくれます。

登場人物の設定や役割に現代的な解釈が加えられていたり、原作とは話の流れが微妙に違っていたり、そして過去には犯人が別の人物になっていたり…という作品もありました。原作を知っていると、観客に向けてあえて用意しているこの違和感をいくつ見つけることができるか、という楽しみがあると思います。

もちろん、本作がはじめての『セロ時間へ』という方にとっては、すべてが新鮮な楽しみに満ちているはずです。そしてできれば、本作を視聴後に原作にも触れていただけると、一体どこに変更が加えられたのか、なぜ変更が加えられたのか、という視聴後ならではの味わいが出てくると思います。

すっかり冬の恒例となったイギリスBBCによるアガサ・クリスティーのリメイク作品を、ぜひじっくりと楽しんでください!

(文:うりまる)

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うりまる
海外ミステリー作品を中心に執筆しています。コージー・ミステリーからハードボイルドまでなんでもよく食べます。