『名探偵ポワロ』『刑事フォイル』『バーナビー警部』など人気ドラマの脚本を手掛けてきたことで知られるアンソニー・ホロヴィッツ氏原作の大人気ミステリー小説がついに映像化!現実の世界とフィクションとが複雑に混ざり合いながら謎を追う本作を、張り巡らされた伏線にものの見事に振り回された筆者がご紹介します。
探偵アティカス・ピュントが難事件完結に挑む大人気ミステリー「アティカス・ピュント・シリーズ」の最新作である『カササギ殺人事件』を書き上げた作家のアラン・コンウェイ。世界中に熱狂的なファンを持つ大人気シリーズの最新作のため、もちろん今回も大ヒット間違いなしと疑っていなかった編集担当のスーザンだったが、コピーされた原稿からは、なんと肝心の最終章がきれいに消え去っているのだった…。
世界が、そして会社の株主たちが首を長くして最新作を待っている中、スーザンはなんとか出版へと舵を切るために原稿の行方を追うことに。消えた最終章は一体どこにあるのだろうか?
舞台は現代のイギリス・ロンドン。
大人気推理作家アラン・コンウェイの推理小説「アティカス・ピュント・シリーズ」の最新作がいよいよ書き上がり、担当編集者であるスーザン・ライランドの手に渡るところからスタートします。
ところが、なんと肝心の最終章が行方不明に。
これは由々しき事態です。登場人物同士のさりげないやり取りからうかがえる人間関係や、時系列の整理を繰り返しながら、著者との知恵比べを経て、読者が最後に真相にたどり着くのが最終章なのですから。
結末の内容によっては、出版から何年もの間ファンたちによる考察や論争がはかどるのも世の常ではありますが、なんにしても最終章がなければ台無しですし、このまま世に出せるわけもありません。
アランの作品によって大きな利益を得てきた出版社にとってはもちろん一大事。長年彼の担当を務めてきたスーザンは、失われた最終章の発見に使命感を燃やすのでした。
さて、そんなスーザンの手元には、最終章の直前までの名探偵アティカス・ピュントの物語があります。失われた最終章で語られているはずの真相にこそ原稿失踪の謎が隠されているに違いないと、ひたすら作品を読み直していくスーザン。
ドラマの中では、スーザンが原稿を追い求める現実と、アティカス・ピュントが若き助手と共に難事件に挑むフィクションとが複雑に交差していきます。作品の中で場面の切り替わりが多く、時代や場所の変化も頻繁に行われる場合、小説だと文字の情報のみに頼るため、読み進めていて「あれ?」と思ったら少しページをさかのぼる・・・なんてことが必要になることもありますが。
さすがは名作ドラマを数多く手がけてきたアンソニー・ホロヴィッツ氏です。映像作品ならではの鮮やかな手法によって場面が切り替わっていくので、「スーザンPart」と「アティカスPart」がとても分かりやすい!
例えば、アティカスが助手と共に事件が起きた田舎町へと向かう道中、交差点を猛スピードで走り去る真っ赤なコンバーチブルを見送る・・・というシーンがあるのですが(ここまでは小説の中)、それが実は愛車を走らせるスーザンだった(ここで現代に引き戻される)という具合に、映像だからこそのかっこいい演出がたくさん用意されています。
そんなホロヴィッツ氏の、これまでのミステリー作品に対する多大な尊敬の念が込められた本作には、ミステリーの女王アガサ・クリスティーのオマージュも豊富にちりばめられています。
ドラマの第一話。
アランが書き上げた原稿を社長であるチャールズから受け取るスーザン。そんな彼女に向けてチャールズが歌うように口ずさんだのは、小説の冒頭に登場するカササギの童謡でした。
「1羽は悲しみ 2羽は喜び…(中略)6羽は金 7羽は秘密」
古くから伝わる子供たちのわらべ歌のようなこの文章ですが(実際に、とある地域で長く歌い継がれてきた童謡の替え歌でもあるそうです)。神秘的で、なぜかそこはかとなく背筋をひやっとさせるものがあります。
さて、昔から子供たちの間で長く親しまれてきた歌になぞらえた事件が起きる物語…といえば、やはりアガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』があまりにも有名ですね。『ポケットにライ麦を』や『5匹の子豚』など、彼女は他にも多くの作品にマザーグースを連想させるタイトルをつけています。
欧米の童謡と深く結びつけられた推理小説を手に取るとき、偉大なミステリーの女王を思い起こす人は多いのではないでしょうか。このドラマではいきなり冒頭から、そんなミステリーのディープな世界に引き込まれていきます。
ミステリーファンにとっては思わずニヤリ、な演出や台詞もあり、ミステリーにはあまり触れたことがなかった方にとっては、ここからさらなる作品の探求へとつながるような作品だと思います。
さて、噛み応えのあるミステリードラマに仕上がっている本作。ドラマを彩る登場人物を演じているキャストたちも豪華なメンバーが揃っています。ここでは、メインのキャラクターを演じた3人をご紹介します。
ドラマ本編で主人公的な役割を担う、出版社勤めの編集者スーザンを演じるのは、レスリー・マンヴィル。『ザ・クラウン』のシーズン5&6にて、マーガレット王女役を務めていますね。2022年の11月に日本でも公開されたばかりの映画『ミセス・ハリス、パリへ行く』で主演を務めているほか、先日AXNミステリーで放送された社会派ドラマ『刑事シンクレア シャーウッドの事件』にも出演していますよ。
ドラマの中でもきわめて重要な立ち位置にいる、人気作家アラン・コンウェイを演じているのは、コンリース・ヒル。ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』でのヴァリス卿役でご存知の方も多いのではないでしょうか(あの時とはだいぶ雰囲気が異なりますが)。また、2022年の3月にイギリスITVにて放送された刑事ドラマ『Holdings(原題)』では主演を務めています。
さらに、アランの書いた小説の中に登場する名探偵アティカス・ピュントを演じるのは、ティム・マクマラン。『刑事フォイル』では、舞台が戦後に移ったシーズン7&8に出演していましたね。MI5で働くこととなったフォイルさんの同僚として登場しました。『恋に落ちたシェイクスピア』(1998)や『フィフス・エレメント』(1997)『クイーン』(2006)などなど、数多くの映画でも活躍しています。
もっと語りたいことは山ほど、それこそあと2時間くらいここでゆっくりしていってほしいぐらいにはあるのですが、残念ながらなにを話してもネタバレになりそうなのです。
かなり気を付けて書いてきたつもりですが、すでにミステリー脳が冴えわたっている人にはなにかを感じ取られている気すらしています。
アンソニー・ホロヴィッツ氏はすでにミステリー界隈で知らない人はいないほどの著名な方ですし、彼の名前は聞き覚えがなくとも、彼がこれまでに手掛けてきたドラマや小説のどれかはきっと触れたことがあるのではないでしょうか。
「カササギ殺人事件」の生みの親、アンソニー・ホロヴィッツ氏
消えた最終章は一体どこへ消えたのか?ドラマの中では「最終章のない推理小説なんてクソ」みたいな台詞が登場するのですが、やはりミステリーにとって最終章というのは大切なものですよね。かつて古書店をさまよう学生だった筆者は、一度推理小説を手に取って、ご丁寧に紙のしおりに「○○が犯人だ」と書いて挟んであるものと出会ったことがあります。ちなみに小説の犯人は全然違う人だったのですが(一体なんだったのか…)。
ドラマ本編には全く関係のない話をしてしまいましたが、つまり、それだけ作品に関わる全ての人にとって、最終章というのは重要な意味を持つもの、ということです。
すなわち、ドラマの中でもそれが深く関わってきます。スーザンは出版社の人間なので、どこまでいっても原稿の行方こそが最重要事項です。しかし、そこに加えてさまざまな問題が浮上してきて、彼女は多くの脇道や回り道を通らざるを得なくなっていきます。
そして、観客である私たちもまた彼女と同じように、ミスリードさせる罠や、一周して元の場所に戻ってきただけの回り道などを踏むこととなりますが、それすらも楽しいと感じさせる魅力ある作品だと思います。
ミステリーに触れる際の癖のようなもので、筆者はよく紙とペン片手にドラマを観ます。人間関係を整理したり、アリバイや動機を書き加えたりと何かといろいろできるのですが、この『カササギ殺人事件』のメモは面白いぐらいにわちゃわちゃになりました(笑)。
ミステリーを愛するすべての人に向けられた、アンソニー・ホロヴィッツ氏の仕掛け絵本のようなドラマだと思います。ミステリーファンはもちろん、これからはじめてミステリーの世界に足を踏み入れようとする方も必見の骨太でおしゃれなドラマです。興味のある方はぜひチェックしてみてください!
[文:瀧脇まる(うりまる)]
週刊文春ミステリーベスト10、ミステリが読みたい!、このミステリーがすごい!、本格ミステリ・ベスト10の各海外部門4冠の達成や、本屋大賞翻訳小説部門第1位に選ばれるなど、海外そして国内ミステリー小説の愛好家たちから高く評価され大ヒットしたベストセラー小説を、ホロヴィッツ自ら脚本を手掛け映像化した渾身の作品。
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画像クレジット:© 2022 Eleventh Hour Films Limited MMXXII
カササギ殺人事件
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