「アストリッドとラファエル 文書係の事件録」をはじめ、数多くのフランスドラマを放送するミステリーチャンネルと、フランスの老舗手芸糸ブランドDMC社によるコラボイベントが11月28日(金)に開催されました。NHK「すてきにハンドメイド」のMCとして知られる手芸家の洋輔さんをお招きしてのトークショー&ワークショップをはじめ、色彩豊かなフランスの刺繍文化をじっくりと堪能できたイベントの模様をお届けします!
ミステリードラマを扱うテレビ番組の企画でどうして刺繍のイベントを?と気になった方も多いのではないでしょうか。イベント冒頭のあいさつで、ミステリーチャンネル編成部 秋山さんがそんな疑問に答えてくださいました。
「ミステリーチャンネルでは数年前からフランスのドラマにも力を入れています。フランスといえば愛の国。友愛、家族愛、そしてもちろん恋愛…さまざまな愛の描写が多い作品ばかりです。そして、映像も非常にカラフル。女性刑事を主人公とするドラマで比較してみると、イギリスのドラマでは基本的にノーメイクであるのに対して、フランスのドラマでは女優さんは綺麗なメイクアップをして出演していますよね。感情表現も画面の中の色彩も豊富なのがフランスドラマの特徴です。DMCさんの刺繍糸は色とりどりで、眺めているだけで幸せな気分になれますよね。ミステリーチャンネルでもフランスの作品選びの際には、視聴者の皆さまの気分が明るくなるような作品を意識しています」
そして、今やフランスドラマの代表作となった「アストリッドとラファエル 文書係の事件録」等の放送をきっかけに、今回のDMC社とのコラボイベントの企画につながったそうです。
会場の「洋輔さーん!」コールに応えて颯爽と登場した洋輔さん。実はミステリー作品がお好きだそうで。ケネス・ブラナー主演・監督「オリエント急行殺人事件」(2017)や、ガイ・リッチー監督「シャーロック・ホームズ」(2009)など、大ヒットした映画はもちろん、手芸のお供にオーディオ・ブックでクリスティー作品を楽しんでいるとのことです!
そんな洋輔さんと共に、フランスの手芸糸ブランドDMC社の歴史を学ぶコーナーへ。会の進行を務めるのは、DMCジャパンの代表 小山田さん。お仕事の関係でフランスへの渡航も多く、DMC創業者一族について調べることがライフワークになったという小山田さんによる、手芸がもっと楽しくなる歴史塾が開講しました。

(洋輔さんのフランス滞在中の思い出なども交えてDMC社の歴史の勉強が進んでいきます)
1746年にジャン・アンリ・ドルフュス、ジャン・ジャック・シュマルザー、サミュエル・コクランの三名によってミュールーズに上質な手触りのインド更紗を製造する会社として発足され、その後二代目社長ダニエル・ドルフュス・ミエッグによってブランドとして誕生したDMC社。
18世紀フランスの華やかな宮廷文化は様々なファッションが生まれた場所でもありましたが、その服飾文化の下支えをしてきたのは貿易によってもたらされた材料(絹・綿)を布や糸に加工する工場でした。DMC社創業の地であるミュールーズには今もドルフュス一族の名前を冠した通りが存在するなど、土地への貢献が非常に大きい企業だったことがうかがえます。
ミュールーズが位置するアルザス地方は水が豊かな地域として知られ、白ワインの産地としても有名ですが、染色や糸づくりにとっても非常に適した水なんだとか。ミュールーズにあるDMCの工場は何年もかけて発展してきた歴史を持ち、現在ではなんと東京ドーム8個分に相当する広さだそうです。

(会場には同社製品による刺繍作品もたくさん展示されていました。いつかはこんな作品を作ってみたい…!)
DMC社はその後家族経営の企業となり、二代目社長の後を引き継いだ四人の後継者、ジャン、ダニエル、エミール、フレデリックによってさらに大きく発展していくことになります。
特に、オーストリアの天才刺繍家テレーズ・ド・ティルモンとジャンとの出会いは、その後にフランスで手芸学校の設立と、世界初の刺繍の辞書『手芸百科事典』の出版へとつながります。この『手芸百科事典』はわかりやすい説明とイラストで手芸を解説した世界初の試みであり、当時の女性たちの間でベストセラーになりました。現在でも権威ある書籍として親しまれていますが、なんと今回その初版本が会場に登場!年月を経てもなお美しい装丁に思わず圧倒されてしまいました…!というかあまりにも貴重すぎて、会場の皆さんも次の方に回すのも恐る恐る…という感じでした。現在も取り扱いがある書籍なので、気になる方はぜひ調べてみてください。

(燦然と輝く馬のマークはDMC社のブランドの証!)
ここで、DMC社と日本の関係についての話題に移ります。なんとフランスには、大正時代に日本の新聞社の本社で刺繍のワークショップが開かれていたことを示す写真が残っているらしく、小山田さんもこれには非常に驚いたとか。白黒の写真の中では、会場に集まった着物の女性たちが、頭を寄せ合って手元に集中している様子が写っていました。笑顔だったり、集中していたりと、今とまったく変わらない手芸に熱中している人々の姿がそこにはありました。
また、時を経て1996(平成8)年には、ブランド創設250年を記念して日本の高島屋でDMC社の展示会が開催され、当時の皇太子妃美智子様もご来場されたそうです。上質な糸によって手芸の楽しさを世界に広めるDMC社は、日本とも深いかかわりがあるのです。
DMC製品といえば、横向きの馬のかっこいいマークがパッと頭に浮かぶ方も多いのではないでしょうか?実は、もともとDMC社のライバル企業のロゴだったそうです。時代は産業革命直後、数々の会社が技術力で他者といかに差をつけるかを競っていた時代に、その会社は馬力で機械を動かしていたことを誇りとして掲げていました。その後DMC社と合併した際に、馬のロゴが継承され、現在までブランドの象徴として残り続けているとのことです。
DMC社の糸は刺繍を嗜む方にとってはおなじみで、その唯一無二の発色と艶は、「まるでパールのような輝き」と洋輔さんも太鼓判を押すほど。シルケット加工と呼ばれる特殊な加工技術を経て絹のような質感を与えられたDMC社の糸は、超長綿という最も上質な綿であるエジプト綿を原料に作られます。表面の毛羽を取り除くために、かつては直接火をあてていた(!)そうで、工場では火災も多かったそう。そのため、かつての工場にはDMC消防団なるものが常駐していたそうですが、技術の変遷と共に火災のリスクも減り、現在では消防団も解体されたとのことです。

(見ているだけでアイデアが膨らんでいく美しい刺繍糸)
さて、歴史に基づく技術力と職人たちのノウハウによって、手芸の世界での地位を確立したDMC社。取り扱う刺繍糸は現在500色以上という驚異的なカラーバリエーションを誇る同社ですが、やはり最も人気なのは「DMCの310番」、すなわち黒のようです。会場からも同意の声がちらほら。使い勝手がよく、ほかに代わりがない黒は求められるシーンも多いのでしょう。
いよいよイベントは、刺繍ワークショップへと突入します。さて、困ったのは筆者です。クロスステッチどころか刺繍は人生初体験。海外ドラマの中で年配の女性がすいすいと刺繍を縫い上げているところを見たことはあれど、それだけではどうにもなりません。刺繍用の木枠を片手に、もう縫い始めている方々の背中を見つめて途方に暮れていると、DMCのスタッフさんがさっと現れて救いの手を差し伸べてくれました。

(会場の皆さんは歴戦の刺繍経験者ばかり!皆さんすいすい進めていきます…!)
今回、用意していただいた図案は複数あり、ミステリーチャンネルの公式キャラクター“ミスティー”にちなんだ黒猫や、おしゃれな感じで仕上がるイニシャルなどワクワクするものばかり。しかし、時間は一時間。刺繍レベル1にもまだ到達していない筆者がおいそれと手を出しても太刀打ちできないことは分かっています。そんなとき、会場に洋輔さんの優しい声が。
「何か一つ完成させたい、という方は、まずはシンプルな肉球マークがおすすめですよ!」
ハッ!と図案を見ると、黒猫の図案の横に可愛い肉球マークがちょこんとついているではありませんか!そこからは無我夢中です。人生初の二本どり(刺繍糸は細い糸が6本集まっていて、まずはそこから二本とることから始まります)、人生で何度目かの糸通し、そして木枠に布を通してピンと張らせた(ここはスタッフさんに手伝ってもらいました)ところで針を刺していきます。

(憧れの木枠!素敵な刺繍糸!ハサミはエッフェル塔を模したDMC社の特別モデルです)
うっかり指をさしてみたり、エコバックの表面を飾る刺繍を縫っているはずなのに袋を縫い合わせてみたり、やらかすべきことをすべてやったという感じでしたが、なんとか肉球マークを完成させることに成功しました。刺繍のワークショップなのに一人だけ尋常じゃない汗をかいていました(後ろの席で本当によかった…)。刺繍をしているときは、手元に集中しているため、本当に目の前のことにしか意識が向かなくなります。
時折、会場のスタッフさんや洋輔さん、そしてほかの参加者の方からお声をかけていただいたのですが、「進んでますね!」と言っていただくたびに、自分でも「ほんとだ!」と驚くほど、手だけが黙々と動いている感覚でした。一つ終わったところでちょうど時間が来てしまったのですが、どんどん次を縫ってみたくなる気持ちがよく分かります。次は黒猫に挑戦したいです…!
さて、ワークショップの時間が終わり、イベントは洋輔さんのトークショーに。イベント冒頭からずっと会場で共にイベントを楽しんでくださっていた洋輔さんは、実は生まれてはじめて触れた手芸がクロスステッチだったそうで。
日本におけるハワイアンキルトの第一人者であるキャシー中島さんをお母様に持つ洋輔さん。
「母に連れられてアメリカのキルトのイベントに行ったときに、渡されたのがクロスステッチのキットでした」
と手芸デビューについて語ってくださいました。その後、手芸から離れていた時期もあったそうですが、俳優を目指していた期間に再び手芸を始めたことをきっかけに、本格的に学ぶことを考えたそう。
日本の文化服装学院の帽子科に入学したのち、本格的に刺繍を学ぶためにフランスへの留学を決定。パリの専門学校エコール・ルサージュで学ぶ傍ら、オートクチュールメゾンでインターンとして働く日々を5年間過ごしたそうです。その後、帰国してからは「すてきにハンドメイド」のMC、そして静岡でのラジオのパーソナリティー、さらにはYouTubeでの動画配信など、手芸の楽しさを広める活動を精力的に行っていることは多くの方がご存じですよね。

(なんとご自身のマイ『手芸百科事典』を持参されていた洋輔さん!お姉さまのフランスのお友達から譲られたものだとか)
ここで、洋輔さんへの質問コーナーに。今回のイベントではソーイング経験者の方が多く、質問も実体験に基づいた具体的なものが多かったです。ここでは一部をご紹介します!
Q.糸とか布とか、ソーイングの材料がどんどん溜まってしまうのですが、洋輔さんはどのように管理していますか?
A.買っては溜まるものですよね(笑)!基本的に小さすぎるものはとっておかないことにしています。布などは、自分の見えるところに置いて、一年経ってもそれが動かなかったら思い切って捨ててしまいます。捨てないと、新しいものが入ってきませんし、アイデアも生まれてこないので。
Q.作りたいもののイメージがあって、でも手を着けることができないときがあります。
A.アイデアごとに、使う図案や材料など、関係するものすべてを保存容器にまとめてみるのはいかがでしょう?袋にはどんなアイデアのためのものなのかを大きく書くことを忘れずに!
Q.作品を作っていると、いつも色使いが似通ったものになってしまいます。斬新な色使いを見るたびに、自分のものと比較して、どうやったらあんな色使いができるのだろうと考えるのですが…。
A.色彩感覚のために僕がよくやっていることは、自然をよく観察することですね。夕焼けであったり、青い空であったり、自分が心を動かされた風景を色使いに反映させています。(お悩みは)いつも似た色を使ってしまうという…とのことですが、まずはそれを自分の色として大切にしてほしいと思います。そして、自分が感動したものを、決して間違いだと思わないでほしい。

(洋輔さんと会場の皆さんでパシャリ!刺繍愛の詰まった素敵な集合写真です)
今回は、ミステリーチャンネル倶楽部企画の刺繍イベントという新しい取り組みに潜入してきました!刺繍初心者のうりまるでもその楽しさが実感できたので、経験者の方にとってはもっと得るものが多かったイベントだったのではないでしょうか。
色鮮やかな刺繍糸は確かに見ているだけで心が明るくなっていくのを感じます。フランスの宮廷文化を支えていた製品が、時を経て海を渡り、現在では世界中の手芸を愛する人々の手でもって新たな作品を生み出し続けているというのは、非常に感慨深いものがありますね。ミステリー作品を愛する者として、暖炉の前で刺繍を嗜むというのは小さな夢の一つだったのですが、これからは炬燵で刺繍を嗜む人としての最初の一歩を踏み出せた気がします。
近年デジタルが世界を席巻する中で、自らの手で何かを作り出す感覚の尊さが見直されているようにも思えます。今回のイベントも、参加した方々、スタッフさんも含めて笑顔が絶えない素敵な時間でした。今回は、刺繍に関する情報もたくさんご紹介しましたので、興味のある方はぜひチェックしてみてください!そして、ミステリーチャンネルが今後どんなフランスドラマを展開するのかもお楽しみに!「アストリッドとラファエル 文書係の事件録」最新シーズンも要チェックです!
(文:うりまる)
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\独占日本初放送決定!/
アストリッドとラファエル 文書係の事件録(シーズン6・全8話)
字幕版:2/23(月・祝)*時間未定
★新シーズン放送前に、シーズン1~5も一挙放送!
シーズン1~5字幕版:2/21(土)~2/23(月・祝)
関連コラム:【特報】「アストリッドとラファエル 文書係の事件録」最新シーズン6、ミステリーチャンネルで 2026年2月23日(月・祝)、独占日本初放送決定!
●フランス絶景ミステリー コレクション(新エピソード10本)
2026年2月放送予定
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